大学院進学率の年次推移
政府が公開する統計データに基づき、大学卒業者に占める大学院進学率の年次推移をグラフとして示しました。1991年卒では7%だった大学院進学率は、その後20年ほど増加の傾向を示し、2011年卒をピーク(13.4%)としてその後減少傾向に向かっています。このページでは、90年代以降の大学院進学率の増加の背景と、2011年以降の減少の理由について、政府刊行物や関連する書籍に記載されている情報に基づき解説します。
「学校基本調査」(文部科学省)を加工して作成
90年代の大学院重点化
上図を見ると、大学院進学率は90年代初めから急に増加を始めますが、この増加の背景には当時の大学審議会(現在の中央教育審議会大学分科会)答申を基礎とした大学院重点化が挙げられます。
1991年、大学審議会から「大学院の整備充実について」及び「大学院の量的整備について」と呼ばれる答申が出され、その中で大学院拡充に関する以下のような目標が掲げられました。
「大学教員・研究者のみならず社会の多様な方面で活躍し得る人材の育成を図るため、大学院を、2000年時点で1991年時点の規模の2倍程度に拡大することが必要と提言されるとともに、同時に、教育研究の質的な改善・充実と教育研究指導の体制整備の必要性も提言された。」
「未来を牽引する大学院教育改革」(文部科学省)より抜粋
「この提言を受け、その後の約10年間(1991~2000年)にわたり研究力の高い大学を中心に大学院の量的整備が進められ、大学院を設置する大学数は約1.5倍、研究科の数は約1.4倍、大学院生の数は約2.1倍へと拡大され」た[1]、というのが90年代における大学院進学率の増加の背景です。下図に大学院在籍者数の年次推移を修士(博士課程前期)と博士(博士課程後期)に分けて示しました。1991年時点では、修士課程在籍者の総数は6万8739人、博士課程在籍者数の総数は2万9911人、計9万8650でしたが、2000年の時点では修士課程在籍者の総数は14万2830人、博士課程在籍者数の総数は6万2481人、計20万5311人となりました。
「学校基本調査」(文部科学省)を加工して作成
しかし、1991年当時の大学院の拡充目標は2000年の時点で達成されたにもかかわらず、その後2005年まで大学院の拡充は進みます。
00年代の大学院の更なる拡充の進行
1999年以降は、大学院を含め大学の設置に関する法令上の規制が緩和され、大学院を設置しやすくなったことが大学院拡充の原因の一つであったとする考えがあります。大学院在籍者数の時系列を見ると、確かにその後の2000年以降に在籍者数の急激な増加が見られます。
1991年当時の大学院の拡充目標が達成される直前であった1999年当時、18歳人口の急減等を踏まえ 「大学等の新増設及び定員増については原則抑制」とする方針が採用されていました。1999年度以降の大学等の設置及び定員増に関する認可の審査に当たっては 抑制的に対応する方針となっていましたが、中央教育審議会による「大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について」という答申の中で、抑制方針を基本的に撤廃することが提言され、この方針を踏まえてその後は大学の設置に関する抑制方針が撤廃されました。これにより、2000年以降も大学院拡充は進められることになりました。
その後、2005年まで大学院の拡充は急速に進んでいきます。2005年の時点では、修士課程在籍者の総数は16万4550人、博士課程在籍者数の総数は7万4907人、計23万9457人となりました。これは、1991年の時点に比べ、修士課程で約2.4倍、博士課程で約2.5倍の人数です。
2005年に大学院在籍者数は変曲点を迎えます。2005年の中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」において、大学全体の量的な整備目標の設定は行わないこととされ、同年の答申「新時代の大学院教育」においても、「各大学における大学院と学部の量的な構成については,大学の機能別分化が進んでいく状況の中で,各大学の責任において検討・判断すべき事柄であると考える」とされ、これにより、数値的な目標に基づいた大学院の拡充は終焉しました。2005年以降は大学院在籍者数の増加は見られなくなり、2011年をピークとして減少に転じます。
2011年の大学院進学率の急増の原因
大学卒業者に占める大学院進学率は2011年に急激な増加が見られますが、これはリーマン・ショックによる雇用情勢の急激な悪化により、①就職浪人をするため大学卒業者が減った(→分母が減ったため、大学院進学者数が相対的に増える)、②大学院に進学し、雇用される機会を先送りにするという行動に出た大学生が一定数あった、ということが原因と考えられます。
下図は、「大学,短期大学,高等専門学校及び専修学校卒業予定者の就職内定状況等調査」に基づき作成した、大学卒業予定者の就職内定率の推移を示すグラフです。データは、卒業前年10月時点、卒業前年12月時点、卒業年2月時点、卒業時点に分けられています。
「平成27年度大学,短期大学,高等専門学校及び専修学校卒業予定者の就職内定状況等調査」
(文部科学省)を加工して作成
上のグラフから明らかな通り、卒業前年10月時点の大卒の就職内定率は、2011卒で史上最悪の値“57.6%”を記録しています。2年前の2009卒の69.9%と比べて12.3%低い数値であり、雇用情勢の悪化が急激であったという点も2011卒の雇用情勢の特殊性を表しています(詳細は就職内定率の年次推移をご覧ください)。
下に、大学卒業者数の年次推移と大学院進学者数の年次推移を示す図を示します。大学卒業者数が2011年に急激に減少、大学院進学者数が2011年に急激に増加している様子が見られます。
「学校基本調査」(文部科学省)を加工して作成
2011年以降の大学院進学率の減少
2011年以降の大学院進学率の減少の原因は、分野別の大学院進学率の年次推移を見ると理解できます。次ページでは、分野別の大学院進学率の年次推移について解説します。